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店舗の原状回復の義務範囲と費用相場!トラブル判例と回避方法も解説2024年07月10日(水)
店舗の原状回復をどこまでやるべきかの判断に迷うことは少なくありません。また、確認するべきところを怠り、予想以上に高額になって慌ててしまう場合もあるでしょう。居住用の通常損耗や費用とは大きく異なる点も多いため、トラブル防止も含めて本記事で解説します。
 

店舗の原状回復の義務はどこまで?

原状回復は「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」と国土交通省の原状回復のガイドラインで明確にしています。
しかし、事業用と居住用では通常の使用についての捉え方が異なるため、賃貸契約書・特約によって変わる原状回復の範囲について解説します。
 

賃貸契約書・特約によって原状回復の範囲は変わる

賃貸契約書・特約によって原状回復の範囲は変わりますが、飲食店やオフィスなど事業内容によっても大きく違います。
 
居住用の物件については、通常損耗の負担は賃貸人です。しかし、事業用の物件は通常損耗の範囲を予想することが難しく、増設などのケースも多いことから通常損耗も原状回復に含まれます。
 
事業所の種類によって原状回復の度合いが変わるでしょう。また、居抜きで借りたとしても居抜きで退去できるとは限りません。スケルトンでの原状回復を求められる場合があります。
 

国土交通省の原状回復のガイドラインは店舗にも適用される?

国土交通省の原状回復のガイドラインは居住用賃貸借を想定しているため、事業用として作成されているわけではありません。
また、法による拘束力はなく、妥当とされる一般的な基準をガイドラインとしています。
 
国土交通省の原状回復のガイドラインを参考にするのは、賃貸借契約書締結の際です。締結後については、契約書の有効性が高くなります。そのため、賃貸借契約書締結の際に契約書の文面にあいまいな部分があれば、トラブルを未然に防ぐためにもしっかりと話し合いましょう。
 
特に注意するべきは「通常損耗」です。事業用は居住用に比べて通常損耗の判断が非常に厳しく、賃借人によって大きく変わるため、契約書や特約の内容確認は必須です。
 
 

店舗の原状回復工事の費用相場とは

店舗の原状回復工事は飲食店と飲食店以外でかかる費用が変わります。
 
例えば、一般的なオフィスの原状回復工事50坪までの小さなオフィスであれば、坪単価3〜7万円ほどが目安です。オフィスの規模があがるほど坪単価も増えていきます。
 
また、立地やビルの状態によっても単価は大きく変わります。水回りの変更がある場合も費用はあがるでしょう。
 
店舗については、飲食店以外で30坪以内の坪単価は3〜7万円ほどが目安です。
しかし、飲食店はカフェなど軽飲食の場合で坪単価が4〜5万円ほど、多くの油や火を使用する焼肉や中華料理店などの重飲食については、坪単価9〜10万円ほどが目安となるでしょう。
 
 
飲食店については、通常損耗の範囲を広げる特約条項が含まれることは珍しくありません。事業者用については、ガイドラインより契約書・特約が効力をもちます。そのため、賃貸借契約書の締結時にトラブルを避けるためにも、確認はしっかり行うようにしましょう。
 

店舗やオフィスの原状回復で起こったトラブル判例と回避方法

店舗やオフィスの原状回復によるトラブルにより、裁判を起こされる場合があります。
そこで、下記3つのような実際に起きた裁判と同じトラブルを起こさないための回避方法を合わせて解説します
 
  • オフィスビル賃貸|通常損耗分の原状回復義務の争い
  • 新築オフィスビル賃貸|原状回復義務の範囲とは
  • 居抜き|居抜きで賃借した借主の原状回復義務はどこまで?
 

オフィスビル賃貸|通常損耗分の原状回復義務の争い

オフィスビル賃貸において、通常損耗分の原状回復義務について争われた判例について解説します。
 
賃貸借契約書における原状回復特約については、全額借主との明記があり、有効に成立しています。ただし、賃貸人が賃借人に通常損耗の原状回復義務を負わせるためには、具体的な内容の明記と明確な合意が必要であるとされました。
原状回復特約条項の記載内容では、通常損耗の範囲を明白に定めたものとはいえず、保証金の償却においても通常損耗の原状回復費に充当するとしています。
 
また、通常損耗については、オフィスビルの賃貸契約であっても、原則として賃料の支払いによって行われるべきとの内容でした。ただし、賃貸借契約書の条項に通常損耗の範囲における具体的な明記がある場合は、国土交通省のガイドライン適用はされず、賃貸借契約書の明記内容が有効であるとしています。
 
「賃貸借契約書の条項に通常損耗の範囲における具体的な明記」もしくは「賃借人による口頭説明」によって、賃借人が明確に認識したうえでの合意がなければ成立されているとはいえないと解されています。
 
(東京簡易裁判平成21年4月10日判決)
 
 
続いて同じトラブルを起こさないための回避方法について、解説します。
 

事業所の通常損耗分についての範囲確認は必須!特約に注意

店舗の場合は、賃貸借契約書の特約として「造作の撤去」や「床板や天井パネル」など、既存であっても新しいものに取り替えるような特約を定められることが多くあります。
特約を拒絶することで賃料があがったり、保証金償却(敷金償却)の方法が決められたりします。
 
保証金償却(敷金償却)にはいくつかのパターンがあり、契約更新時に請求される場合もあれば、解約時の償却期間によって返金される場合もあります。
実費償却は、原状回復などで実際に使用した金額分について差し引かれます。
 
賃貸借契約書の締結前に、特約を見落としていないか確認し、原状回復にかかわることや保証金償却(敷金償却)についての記載があれば、内容の確認もしっかり行いましょう。
専門的な知識をもっていなければ、見落としや内容の確認が十分にできない場合もあります。個人での取引も可能ですが、専門的な知識と豊富な経験をもつ不動産仲介業者を通すことをおすすめします。
 
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新築オフィスビル賃貸|原状回復義務の範囲とは

新築物件(オフィスビル)の貸室を保証金1200万円の支払いをして借りていました。しかし、退出の際、原状回復費用を含めた費用が1200万円では不足であると賃貸人から不足額の請求をされたのです。提示された不足額は651万円余と大幅に増加されました。
 
第一審東京地裁では「賃借人は、社会通念上通常使用することによって生じた程度の損耗、汚損を除去して、賃借時と同等の状態にまで原状回復義務を負担するものではない」とされています。
 
ところが高等裁判所においては、賃貸物件を「本契約締結の際の状態に回復させる」ことまで要求していることは、本契約書によって明らかであるとしています。そのため「通常損耗や汚損をも除去し、賃貸した当時の状態までの原状回復義務はある」と判断されました。
そして、賃貸人は保証金1200万円から消費税込みの償却費を控除した、残金の295万円余を賃借人に返還する義務があるとの判決内容でした。
 
(東京高裁平成12年12月27日判決)
 
 

原状回復についての認識違いから起こるトラブルを回避する方法とは

前述の判例では、オフィスについて賃貸人と賃借人が通常損耗までを含んだ原状回復特約についても、賃貸借契約書締結の際に納得のうえ合意したと判断されたものといえます。
そのため、賃貸借契約書を締結する際には、特約を見落とさないように注意しましょう。
 
また、契約の際には退去時の状態まで考え、通常消耗による回復義務の範囲は確認が必要です。賃貸人と賃借人の認識違いもトラブル発生のもととなります。賃貸借契約書締結前に契約内容についての十分な確認と話し合いが、トラブル回避につながるでしょう。
 
また、専門的な知識がないことで、たとえ賃借人に不利な条件が賃貸借契約書の内容にあったとしても気づけない場合があります。しかし、専門知識と豊富な経験をもつ不動産仲介業者を通すことで、トラブルを未然に防げる可能性が高くなるでしょう。
 
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居抜き|居抜きで賃借した借主の原状回復義務はどこまで?

改装済みの店舗を居抜きの状態で賃借した物件の原状回復義務の範囲について、争いになった事例です。
賃貸借契約書において「内装、設備を撤去して本件貸室を原状に復し」との内容のみ記載されていたことにより、原状の範囲をめぐる争いに発展しました。
 
具体的には、賃借人が借受けたときの状態は、前賃借人が施した漫画喫茶を経営するための内装の状態でした。そして、賃借人が賃貸人に保証金を渡して営んだのは、個室付きのリラクゼーション施設です。
撤去の際は特殊な内装でもあったため、賃貸人の指示により、賃借人はスケルトン工事をしました。
 
賃貸借契約書の原状回復義務の条項に記載されていた内容は、以下です。
「本件貸室を返還する場合、自己の負担で施した内装、設備を撤去して本件貸室を原状に復し、(賃借人)所有の一切の物品を建物外に排出しなければならない」
 
賃借人は賃貸人の指示により「スケルトン状態」にしましたが、賃貸人は元々の形である事務所使用の内装にする工事をして、賃借人の保証金から差し引きました。
賃借人は、負担すべき原状回復義務の範囲を超えているとして、一部返還を求めたのです。
 
結果、賃借人は「事務所使用の内装まで戻すまでが原状回復義務」と解せられました。
しかし、賃借人は完全なスケルトン状態にする必要はなかったと認められたことにより、一部請求が認容されました。
 
(東京地裁平成30年8月8日判決)
 
 

居抜き物件の原状回復の方法はさまざま!トラブル回避に有効な方法とは?

居抜き物件として入居しても元はスケルトンのため、退去の際はスケルトンにしなければならないことも少なくありません。しかし、賃貸借契約書・特約の内容はそれぞれ異なります。そのため、契約締結前に確認することは非常に重要です。
 
賃貸借契約書締結の際には最低限、以下2つを意識しましょう。
  • 通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項は具体的に記載する
  • 口頭説明のみは避けて書面にする
 
また、店舗を借りていた賃借人が退去する際に、原状回復工事を行わずに費用のみの支払いをすることで合意する場合もあります。しかし、賃貸人が工事することなくそのまま居抜きで貸したことに対して、元賃借人が工事費用相当額の返還を求めたケース(不当利得返還請求権)もあります。判決は不当利得ではないとして、元賃借人の請求は棄却されました。
 
たとえ交渉により双方が合意に至ったとしても、結果的にトラブルとなってしまう場合もあります。口頭だけの合意は避けましょう。
双方の認識の違いや言った言わないなどの争いを起こさないためにも、合意書を作成するなど具体的に書面に起こすことがトラブル回避につながります。
 

原状回復工事業者の見極めポイント3つ

原状回復工事業者の見極めポイントは次の3つです。
 
見積もりは詳細か
専門資格は保持しているか
実績はあるか
 
ひとつずつ解説します。
 

原状回復工事費の見極め方|見積もり

見積もりについては、まず以下2つを確認しましょう。
  • 見積もりの項目が少ない
  • 項目内容が明確か
 
そして、見積内容について質問した際、しっかりとていねいな説明をしてもらえるかがポイントです。
適正相場を知るためにも、複数の業者から見積もりをとることは多くあります。見積もりの項目は業者によって異なるため、確認が必要な場合はあるでしょう。
 
注意するのは「一式」で値段が書かれている場合です。
工事にかかる費用をまとめて一括で表していると考えてください。何にどれだけの費用がかかっているのか詳細がわからないため、必要以上の金額を請求される可能性もあります。
そのため、工事内容やそれぞれの費用がわかりやすい見積書を出してもらえるかは、業者選びの重要なポイントのひとつです。
 

原状回復工事必須の資格とは|専門資格の保持

原状回復工事に必要な資格は次の2つです。
 
  • 建設業許可
  • 解体工事登録
 
建設業許可の資格を保持している業者は、全国で原状回復工事を行えます。また、500万円以上の大型工事を請け負うことが可能です。
 
解体工事登録の資格を保持している業者は、事務所所在の都道府県であれば工事を行えます。他の都道府県の工事を請け負う場合は、工事をする都道府県の許可が必要です。また、500万円未満の工事であれば請け負えます。
 

原状回復工事の施工実績をみる|実績の豊富さ

業者の実績を知ることによって、技術面の確認もできます。
自社の条件に近い原状回復工事の経験度合いがわかることで、トラブルの事前防止や対応力に期待できるでしょう。
 
費用の安さだけで選ぶと、トラブルになる可能性があります。対応の仕方や技術力、実績を見比べて選ぶことをおすすめします。
 

店舗の原状回復範囲は契約内容次第!契約締結前の確認が重要

店舗の原状回復範囲については、営むお店が軽飲食や重飲食によっても変わってきます。
また、賃貸借契約書締結の際に、賃貸人と賃借人の双方が契約内容について同じ認識を持てているかの確認は重要です。
そして、口頭だけではなく、退去時の合意書作成などしっかり書面にて記載することがトラブル回避につながります。
 
専門的な知識がなければ気づけないこともあるため、専門知識と豊富な実績をもつ不動産仲介業者を通すことによって、トラブル防止にもなります。
 
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